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10月末に台南にある私立の美術館「奇美博物館」で新しい特別展《畫師們:走進 16、17 世紀尼德蘭繪畫時代(16、17世紀のネーデルラント絵画時代)》が始まりました!
先日、メディアツアーにも参加してきたので、その様子と展示会の見どころをご紹介します!
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展示概要
奇美博物館は大体半年に1回ペースで特別展が切り替わります。
以前の展示:【イベント】既成概念をぶち破るアート展が奇美博物館で開催「跳出格子吧!機器X材料X藝術超展開」
毎回楽しみにしてるんですが、今回は400年前(16〜17世紀)のネーデルランドの画家たちの作品を集め、さらに、奇美博物館独自の研究を重ねた《畫師們:走進 16、17 世紀尼德蘭繪畫時代》。
この展示の開催期間は、10月26日から来年8月31日まで。
期間 2024.10.26 - 2025.08.31
時間 9:30 – 17:30(水曜日は休み)
会場 奇美博物館 特展廳(臺南市仁德區文華路二段66號)
チケット 公式サイト、KKday
ネーデルラントは、中国語では「尼德蘭」と書きます。
ネーデルランドは、現在ではオランダ地方と言われますが、舞台となる16〜17世紀は、西ヨーロッパ大陸北西部を指しており、広い範囲を指す地域。
時代によって範囲が異なるのも面白いですよね。
展示では、選りすぐりの60点の貴重な絵画を展示だけでなく、科学調査と美術史研究を組み合わせ、画家たちの謎に包まれた技法や創作の秘密が解き明かされます。
時代や政権の流れにより、作品や画家たちが影響されるため、事前情報をしっかりと理解するとこの後に出てくる作品をより楽しめますよね。
今回のテーマ「ネーデルランド」と言っても、先ほど話したように時代によって範囲も雰囲気も大きく変わります。
展示では、以下の3つの時代に分けて、起こった事件や革命、登場人物など、大まかなネーデルランドの流れを解説されています。
- I :走向繁榮的勃艮第尼德蘭(ブルゴーニュのネーデルランド)
- II:哈布斯堡勢力介入尼德蘭(ハプスブルク家勢力が介入してきたネーデルランド)
- III:尼德蘭革命的南北分裂(ネーデルランド革命による南北分裂)
ネーデルラント地域(現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルク、フランス北部)は、16~17世紀の大航海時代、港湾貿易が発展して栄え、東インド会社が設立した地域。
このような経済繁栄を背景に、一般市民の間でも芸術を楽しむ文化が広がり、絵画の需要が高まりました。
この結果、絵画制作が効率的に行えるよう画家工房が設立され、分業生産方式が採用されるようになりました。
展覧会は4つのテーマに分かれており、ネーデルラント絵画の世界を順に探求していきます。
- 那是個什麼樣的年代 :どのような時代だったのか
- 如何成為一個專業畫師:どうやって専業画家になるのか
- 有哪些作品主題 :どんなテーマの作品があるのか
- 會遇到哪些研究難題 :どんな研究難題に出会ったのか
今回の展示では、ネーデルラント時代の絵画や作品に隠されたメッセージを解明するだけでなく、奇美博物館が12年かけて行った科学的な研究成果も紹介しています。
赤外線、紫外線、X線などを用いた分析を通じて、絵画の裏側にある秘密やストーリーを解き明かします。
音声ガイドを借りて解説を聞きながら見ると、さらに楽しめるのでおすすめです。
見どころ紹介
ここからは、今回参加したメディアツアーで説明いただいた作品をメインに、この展示にきたら絶対に見てほしい作品をいくつかご紹介します。
これが全てでは全くないのですが、これだけは絶対生でその絵画の質感や雰囲気を味わってほしい!っていう作品です♪
権力
世界向阿波羅致敬 The World Honors Apollo – Hans Jordaens III
一番最初に現れる作品は、年表の横にかけられている、ハンズ・3世・ヨルダーンスの作品「世界向阿波羅致敬 The World Honors Apollo」。
月桂の王冠をつけ、金色の布を纏って鎮座している太陽神アポロを描いた絵画。周囲を見るとアジア人、ヨーロッパ人、アフリカ人、アメリカ人など多種多様な方々が貢物を捧げています。
これは、また別で書かれていたフランス・フランケン2世(弗蘭斯·弗蘭肯二世:Frans Francken II)の作品「皇帝查理五世的退位(チャーリー5世の退位)」を連想させる作品で、この時代のネーデルランドの栄華を誇った様子を表しています。
こちらの絵画も参考に印刷掲示されているので、見比べると面白いですよ!
全家福 A Family Seated at Table in an Interior – Gillis van Tilborgh the Younger
たくさんの食べ物が並べられ、お酒を飲みながら楽しそうに談笑している家族の様子を描いたギリス・ファン・ティルボーグ2世(希利斯.范.提勒伯赫二世:Gillis van Tilborgh the Younger)絵画「全家福 A Family Seated at Table in an Interior」。
一見普通の今でいうところの家族写真のようなものかと思いきや、書かれている中にたくさんの意味が込められています。
例えば、足物にいる犬(コーイケルホンディエかな?めっちゃ可愛い)は婚姻の「忠誠」を象徴していたり、皮が垂れ下がっているレモンには欲を出しすぎないように。
テーブルの上のブドウや赤ワイン、パンにはイエスキリストの受難の食事の意味が込められています。
民間
これは実物の絵画ではないんですが、民間の中でも絵画の売買がされている様子が描かれています。(右上奥の部分)
一般庶民であっても絵を買う余裕があったことがわかります。
ただ、大物画家の作品はもちろん高いので、見習い画家などを集めて分業制で模倣作品を作る工房がたくさん生まれました。
修復履歴
(模倣)東方三賢士的朝聖
Triptych with the Adoration of the Magi – Pieter Coecke van Aelst
今回の展示の特徴の一つ、奇美博物館の美術チームが作品を分析していること!
この作品は、「イエスが誕生時にきた星術師の様子」、「羊飼いの洗礼」、「イエスの割礼」を描いたもので、中央のメインとなる作品を描いた後に左右の作品が付け足されたもの。
ピーテル・クック・ファン・アールスト(彼特・庫克・范・艾爾斯特:Pieter Coecke van Aelst)「東方三賢士的朝聖 Triptych with the Adoration of the Magi」の模倣品です。
模倣品ということは、当時かなり人気があったデザインなのだと思われます。
赤外線など様々な分析を行い、会場に設置された機械で絵画の深部を確認することができます。
よく見てみると、人の顔の部分や絵の具の劣化した層から下書きが出てきていることがわかっています。
(模倣)聖母子 Virgin and Child – Jan Gossart
この絵画は、ヤン・ホッサールト(楊・荷賽特:Jan Gossart)の「聖母子 Virgin and Child」。
この作品も工房で作られた模倣品なので、大量生産された人気作品。
当時、模倣するにあたり、原作のデザインから少しだけ変更し、自分のものとして改良することが流行っていたようで、この絵画も実物とは少し改良した形で作られています。
卸下聖體 The Deposition – Workshop of Gerard David
イエスキリストが十字架から下ろされるシーンを描いた、ヘラルト・ダヴィト工房(Workshop of Gerard David:傑拉德・大衛工作坊)の「卸下聖體 The Deposition」。
工房で作られている大量生産作品です。
この作品も赤外線分析がされており、綺麗にはっきりとした下書きを見ることができます。
この作品の面白いところは、色付けの際、構図がおかしいことに気づき、ハシゴの位置を少し変更されていたり、女性がかぶっている白い布の皺の感じが下絵と少し違うところなど。
分担作業で複数人で作っていたことがわかる分析です。
(模倣)聖母子 Virgin and Child – Robert Campin
この絵画は白い薔薇を持った聖母マリアとイエスのロベルト・カンピン(Robert Campin:羅伯特・坎平)の「聖母子 Virgin and Child」の模倣作品。
バックの光と左右のデザインがすごく素敵ですよね。人気になるだけのことはある!
下書きには点を打った跡があり、明らかに下絵の位置を支持しているものがありました。
それとこの作品は裏が見れます!
木の板を4枚の上に描かれていて、日本の接木のような形で組み合わせてありました。
表からは全くわからない継ぎ目、すごい。
風車前的旅人
An Extensive Landscape with Travelers before a Windmill – Jan Brueghel the Younger
この巨大に壁に引き伸ばしてある作品(本物は右側の小さいやつ)もすごかった!
ヤン・ブリューゲル2世(Jan Brueghel the Younger:楊・布魯赫爾二世)の「風車前的旅人 An Extensive Landscape with Travelers before a Windmill」。
なんとこの絵画、左端っこの部分に赤外線分析をしてみると動物の骨が!!!
元々はあったデザインの上から何故か上塗りされている見たい。
この衝撃結構強かった、会場で画像を使った解説がしっかりされているので、ぜひ生で見てみてください。
(伝)果實環串中的聖露西
Garland of Fruits with Saint Lucy – Attributed to Antonio Pereda
今回の展示で一番面白い分析だと思ったのが、アントニオ・デ・ペレーダ(Antonio Pereda:安東尼歐・裴瑞達)の作品だと言われている「果實環串中的聖露西 Garland of Fruits with Saint Lucy」。
果物に囲まれている左手には聖杯、右手には棕櫚の葉を持つ聖ルチアを描かれている絵画なんですが、なんだか違和感がありませんか?
この絵画、実は2種類の絵画を組み合わせて描かれているんです。
手鏡のような形で中央の聖ルシア絵画が別の絵画の中にすっぽりとはめられている状態で出来上がっている作品。
どうしてそうしたのか理由はわかりませんが、インクの年代分析や赤外線分析などで発見された事実。絵画自体もなんだか少し曲がっています。
まるでミステリーの物語に出てきそうな作品で、面白いですよね!
この絵画に入ったような構図で写真が撮れるフォトスポットも用意されていました。
民衆と教訓
ここからは、より庶民にフォーカスした作品をご紹介。
ただの日常風景かと思いきや、教訓が込められたちょっと癖のある作品が並んでいました。
酒館內的嬉樂人群
A Tavern Interior with People Drinking and Music-making – Jan Steen
この作品は、酒屋で楽しそうに酔っ払っている人々を描いた、ヤン・ステーン(Jan Steen:楊・斯汀)の「酒館內的嬉樂人群 A Tavern Interior with People Drinking and Music-making」。
ここまでベロンベロンに酔っ払ってる様子をかいた作品って珍しくないですか?ほんと笑っちゃうくらい酔っ払ってる方々が描かれています(笑)
男女のいやらしいやり取りの様子も描かれており、床に落ちている牡蠣は、当時精力剤のような効果、お酒は乱行を想像されるものだったり・・・。
もちろんこの作品の教訓は、酒は飲んでも飲まれるな、愛情を慎みなさい。
拜訪醫生 A Visit to the Doctor – Flemish School
この絵画何してるところに見えますか?作品タイトルを見ないと、なんだか意地悪おばちゃんが媚薬とか毒薬を調合されているように見えません?(私は見えました笑)
フラマン派(Flemish School:法蘭德斯畫派)の「拜訪醫生 A Visit to the Doctor」という作品で、おばあちゃんが、お医者さんに診察してもらっている様子でした。
これ、尿検査をしている風景なんですが、当時、尿検査はヤブ医者の詐欺手法となっていっていたため、作者は尿検査を通して、それを風刺しているそう。
だから、最初に見たときなんか怪しい雰囲気だなと思ったのかもしれません。
歴史的な背景を知らないと、気づかないですが、わかったら面白い風刺ですよね。
在儲食間布滿食材獵品的桌旁 調情的一對男女
A Couple Courting in a Larder at a Table Laden with Food and Game
– Studio of Gerrit van Honthorst
この絵画もやばくないですか?(///)
絶対不倫してるでしょ?っていうこの絵画は、ヘラルト・ファン・ホントホルスト工房
(Studio of Gerrit van Honthorst:格里特・范・洪索斯特工作坊)の「在儲食間布滿食材獵品的桌旁 調情的一對男女 A Couple Courting in a Larder at a Table Laden with Food and Game」。
しかも、女性が手に持っている鳥は、食材としての意味だけでなく、欲情の意味もあり、道徳的な教訓が込められています。
花卉靜物 Still Life with Flowers – Jan Pieter Brueghel
教訓エリアに植物の絵画もあります!
いくつか並んでいたんですが、個人的に好きだったのは、フランドル派で有名なジャン・ピーテル・ブリューゲル(Jan Pieter Brueghel:楊・彼特・布魯赫爾)の「花卉靜物 Still Life with Flowers」という作品。
この花瓶は、同時に咲くことのない四季の花を集めた画家の理想の美を再現したもので、現実にはありえない状態。
美しさは同時に存在しないことと、美しい歳月は過ぎ去っていることを風刺している作品です。
お土産ショップもお見逃しなく!
展示会って、お土産ショップも見逃せないですよね!!!
今回のネーデルランドの特別展に合わせて、台湾未進出のオランダのブランドとコラボレーションしていて、台湾未発売の商品にも出会えます!
オランダといえば、1955年に誕生した世界的に愛されているキャラクター「ミッフィー」!!!!
絵本作家ディック・ブルーナさんが描いた絵本の主人公、オランダでは「ナインチェ(うさこちゃんという意味)」と呼ばれているそうですよ。
いろんなタイプのミッフィーが一緒に家に帰るのを待っていました。
カラフルなホーローの食器は「Jansen+co(ヤンセン&コー)」、キノコ花瓶と後ろの白い家の形の蝋燭ケースは「&k」。
Jansen+coのパッキりとした色合いがオランダっぽいですよね!すっごく可愛かった!
Mushroom Vaseは、今回特別に奇美博物館が直接ブランドから卸した、台湾先行販売です!
今回のメディアツアーのお土産でいただいたノベルティもご紹介。
今回の展示の絵画(花卉靜物 Still Life with Flowers- Jan Pieter Brueghel)の四季の花デザインのパイナップルの形の箱に入った、パイナップルケーキすごく美味しかった!
台南ブランド陽光菓菓から販売されているパイナップルケーキで、いつもは通常のパッケージで販売されてるんですが、特別展示に合わせて可愛くアレンジされるの限定感があって良いですよね!
終わりに
他にもたくさんの作品が展示されていて、展示エリアはそこまですごく広いわけではないのですが、一つずつ見ていくと1時間以上かかります。
是非、日本語ガイドを借りて時間をいっぱい使ってみにいってください!
また、私は絵画の中で犬を見つけるのが趣味なんですが、今回の作品にはたくさんのオランダ原産の犬「コーイケルホンディエ」が登場していました。(大谷翔平のデコピン!)
より庶民の生活に密着した絵画が多かったからか、犬たちも楽しそうに遊んでいたり、忠実に飼い主と歩いていたり、当時の方々が犬と一緒に生きていたこともすごく伝わってきました。
時代背景を事前に頭に入れておくと、よりこの時代の流れや絵画形式を理解できるのでおすすめ。
調べるときのキーワードは、「フランドル派」、三大巨匠と呼ばれる「ハルス、レンブラント、フェルメール」など。その他、今回紹介すた画家たちの関係図や家系図も調べておくと、よりこの展示が楽しめますよ!
奇美博物館 特展廳「畫師們」の詳細
畫師們:走進 16、17 世紀尼德蘭繪畫時代(Instagram、Facebook、HP)
期間 2024.10.26 - 2025.08.31
時間 9:30 – 17:30(水曜日は休み)
会場 奇美博物館 特展廳(臺南市仁德區文華路二段66號)
チケット 公式サイト、KKday
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